ギリシャで「また」ピカソの絵を含む絵画が盗難に遭いましたね。http://www.asahi.com/international/update/0110/TKY201201100061.html
一部では国の財政危機が影響しているんではないかなどとのツイートを見かけるけれど、本当にそうかしら?警備員の数を減らしているなら多少影響あるかもしれないけれど、昔から絵画の盗難って結構多いわけで、昨年だって、パリの市立美術館で盗まれていますね。
http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011100201000035.html
犯人は捕まっても、絵画が出てこないというケースは、これまた多くて、中には「隠し場所を忘れた」犯人が亡くなってしまって永遠に出てこないなーんて事も。
翻って、フェルメールのたった35前後(真贋が論争されていたりするんで、展覧会毎に監修者が違い、36枚とカウントしていても、中身が異なり、2-3枚が出入りしていますよね。)の中にも20年くらい前にボストンで盗難に遭って以来「合奏」という一枚が未だに見つかっていません。ピカソの作品の数といえば約15万点といわれていますから、盗難に遭遇してしまう可能性も高いわけですけど、フェルメールはその4千数百分の一の35点前後しかないのに、第二次世界大戦中ナチス軍に接収・・盗難というより強奪されたことがある絵が2枚(画家志望だったヒトラーに捧げる目的だった等とまことしやかに言われていますね。)、そして真の盗難に遭った絵は3枚、しかもそのうち1枚は二回も!という受難ぶり。数が少ない事による貴重性の評価が高いから・・という事が主たる原因と言われているけれど、そんな来歴のある絵を未だに鑑賞することができる、というのは本当に「運の良いこと」じゃないか、とさえ考えてしまいます。
現在、渋谷のBUNKAMURAで開催されているフェルメール展。その目玉は修復後最初のお目見えとなる「青い衣の女」で、修復直前で状態の悪い時にアムステルダムで見ていた私としては、その違いがかなり鮮明で楽しいけれど、初めて見る人にとっては、フェルメールの作品という以外「別に」それほど言われる程の感動はないのではないかと思います。勿論、会場で上映されているハイビジョン画像の解説を見て「ふーん、そういうことだったのかぁ」・・という気持ちになって、もう一度戻ってみようかな、という気になるかもしれないし、手紙というテーマと17世紀という時代に思いを馳せるという意味でも小規模ながら、なかなか良いテーマの展覧会だとは思います。
でも、もう一つ「盗難」というポイントに目を向けると、添えられた解説がなされていることの大切さが分かるので、これから行こうかしら、という人も、もう見ちゃったわという人にも御紹介。
「青い衣の女」の左側に今回二度目の来日となる「手紙を書く女と召使い」の絵がかかっていますよね。実はこの絵が二度の盗難という過酷な運命に遭遇しながらも、今ここに輝きを放ちながら私達に感動を与えてくれる貴重な絵なのです。
一度目は1974年の4月。丁度その一ヶ月前に英国で「ギターを弾く女」が北アイルランド解放軍(IRA)によって盗まれ、この絵を燃やさない条件として逮捕されている活動家の引渡を要求され、その解決に向け英国政府が奪回作戦を練っている最中に、この「手紙を書く女と召使い」の絵が盗まれるという事件が起きました。同じようにIRAを支持するグループの犯行で、「ギターを弾く女」と前後して、テロに屈しなかった英国政府や関係者が取り戻しに成功した、という話も毅然とした態度で感動的ではあるのですが、その時、今はきらきらと白い光が艶めいている主人である女性の右袖上部からタペストリーに到る長さ28センチの深い傷ができてしまったそうです
その他の浅い傷等もあった為、「青い衣の女」同様、古いニスを剥がして傷を修復したそうなんですが、その時初めて今回の展覧会の重要テーマである手紙の赤い封蝋が出現した訳なんですね。この悲惨な事件がなければ今回の展覧会の企画は実現しなかった・・とまでは言わないまでも、感慨深い。そして床に落ちている手紙が女主人の書き損じなのか、今回の解説のように、女主人が憤りを沈めなくてはならないほどの内容の手紙を受け取って、投げ捨てたと解釈するかの論争が研究者達の間で始まった・・・。2008年に東京都美術館での展覧会では、書き損じの手紙を投げ捨てたとの解説だったように記憶するだけに、オーディオガイド聴いた時にあれっ?って思ったりもし・・・
その論争の結論はともかく、折角修復されて戻ってきたというのに、二回目はそれから干支が一回りした1986年にまたしても盗難の憂き目に。今度の犯人はさしずめ実在のルパン三世といったところの大泥棒マーティン・カーヒルとその一味なのでIRAのテロとは無関係。でも何故かIRAとは切り離すことはできず、カーヒルがこの絵を売り捌く為にカトリック系のIRAとは異なるプロテスタント系に接触したが為に、IRAの恨みを買って、その後暗殺されてしまうその一代記はTheGeneralという映画にもなってカンヌ映画祭で監督賞まで取ってしまうというおまけつき。
こういった周辺物語が色々あって、そんなことを思い巡らせ鑑賞すると飽きないんですよね。
おっと、もうひとつ、74年の盗難時は1ヶ月ちょっとで戻ったけれど、二回目は93年まで見つからなかったのですが、戻ってきて再度修復が行われた時に女主人の左目に針で突いたような穴がある事が確認されました。この確認がきっかけで、フェルメールの「カメラオブスキュラを使った透視画法」が立証されたと言われているのもフェルメールファンとしてはいとをかし・・なのであります。
どうです?たった1枚の絵にもこんな物語があると思うとワクワクしちゃいませんか?ただでさえ、その光と構図が人の心を捉え易いフェルメール、いや少なくとも私は魅了されて、展示されているところには何度でも足を運ぶ、フェルメールバカなもんで、力はいって長文になっちゃいました。あは。、
【注:これらの情報は主として研究者の朽木ゆり子さんの「盗まれたフェルメール」にお頼りしています。】
一部では国の財政危機が影響しているんではないかなどとのツイートを見かけるけれど、本当にそうかしら?警備員の数を減らしているなら多少影響あるかもしれないけれど、昔から絵画の盗難って結構多いわけで、昨年だって、パリの市立美術館で盗まれていますね。
http://www.47news.jp/CN/201110/CN2011100201000035.html
犯人は捕まっても、絵画が出てこないというケースは、これまた多くて、中には「隠し場所を忘れた」犯人が亡くなってしまって永遠に出てこないなーんて事も。
翻って、フェルメールのたった35前後(真贋が論争されていたりするんで、展覧会毎に監修者が違い、36枚とカウントしていても、中身が異なり、2-3枚が出入りしていますよね。)の中にも20年くらい前にボストンで盗難に遭って以来「合奏」という一枚が未だに見つかっていません。ピカソの作品の数といえば約15万点といわれていますから、盗難に遭遇してしまう可能性も高いわけですけど、フェルメールはその4千数百分の一の35点前後しかないのに、第二次世界大戦中ナチス軍に接収・・盗難というより強奪されたことがある絵が2枚(画家志望だったヒトラーに捧げる目的だった等とまことしやかに言われていますね。)、そして真の盗難に遭った絵は3枚、しかもそのうち1枚は二回も!という受難ぶり。数が少ない事による貴重性の評価が高いから・・という事が主たる原因と言われているけれど、そんな来歴のある絵を未だに鑑賞することができる、というのは本当に「運の良いこと」じゃないか、とさえ考えてしまいます。
現在、渋谷のBUNKAMURAで開催されているフェルメール展。その目玉は修復後最初のお目見えとなる「青い衣の女」で、修復直前で状態の悪い時にアムステルダムで見ていた私としては、その違いがかなり鮮明で楽しいけれど、初めて見る人にとっては、フェルメールの作品という以外「別に」それほど言われる程の感動はないのではないかと思います。勿論、会場で上映されているハイビジョン画像の解説を見て「ふーん、そういうことだったのかぁ」・・という気持ちになって、もう一度戻ってみようかな、という気になるかもしれないし、手紙というテーマと17世紀という時代に思いを馳せるという意味でも小規模ながら、なかなか良いテーマの展覧会だとは思います。
でも、もう一つ「盗難」というポイントに目を向けると、添えられた解説がなされていることの大切さが分かるので、これから行こうかしら、という人も、もう見ちゃったわという人にも御紹介。
「青い衣の女」の左側に今回二度目の来日となる「手紙を書く女と召使い」の絵がかかっていますよね。実はこの絵が二度の盗難という過酷な運命に遭遇しながらも、今ここに輝きを放ちながら私達に感動を与えてくれる貴重な絵なのです。
一度目は1974年の4月。丁度その一ヶ月前に英国で「ギターを弾く女」が北アイルランド解放軍(IRA)によって盗まれ、この絵を燃やさない条件として逮捕されている活動家の引渡を要求され、その解決に向け英国政府が奪回作戦を練っている最中に、この「手紙を書く女と召使い」の絵が盗まれるという事件が起きました。同じようにIRAを支持するグループの犯行で、「ギターを弾く女」と前後して、テロに屈しなかった英国政府や関係者が取り戻しに成功した、という話も毅然とした態度で感動的ではあるのですが、その時、今はきらきらと白い光が艶めいている主人である女性の右袖上部からタペストリーに到る長さ28センチの深い傷ができてしまったそうです
その他の浅い傷等もあった為、「青い衣の女」同様、古いニスを剥がして傷を修復したそうなんですが、その時初めて今回の展覧会の重要テーマである手紙の赤い封蝋が出現した訳なんですね。この悲惨な事件がなければ今回の展覧会の企画は実現しなかった・・とまでは言わないまでも、感慨深い。そして床に落ちている手紙が女主人の書き損じなのか、今回の解説のように、女主人が憤りを沈めなくてはならないほどの内容の手紙を受け取って、投げ捨てたと解釈するかの論争が研究者達の間で始まった・・・。2008年に東京都美術館での展覧会では、書き損じの手紙を投げ捨てたとの解説だったように記憶するだけに、オーディオガイド聴いた時にあれっ?って思ったりもし・・・
その論争の結論はともかく、折角修復されて戻ってきたというのに、二回目はそれから干支が一回りした1986年にまたしても盗難の憂き目に。今度の犯人はさしずめ実在のルパン三世といったところの大泥棒マーティン・カーヒルとその一味なのでIRAのテロとは無関係。でも何故かIRAとは切り離すことはできず、カーヒルがこの絵を売り捌く為にカトリック系のIRAとは異なるプロテスタント系に接触したが為に、IRAの恨みを買って、その後暗殺されてしまうその一代記はTheGeneralという映画にもなってカンヌ映画祭で監督賞まで取ってしまうというおまけつき。
こういった周辺物語が色々あって、そんなことを思い巡らせ鑑賞すると飽きないんですよね。
おっと、もうひとつ、74年の盗難時は1ヶ月ちょっとで戻ったけれど、二回目は93年まで見つからなかったのですが、戻ってきて再度修復が行われた時に女主人の左目に針で突いたような穴がある事が確認されました。この確認がきっかけで、フェルメールの「カメラオブスキュラを使った透視画法」が立証されたと言われているのもフェルメールファンとしてはいとをかし・・なのであります。
どうです?たった1枚の絵にもこんな物語があると思うとワクワクしちゃいませんか?ただでさえ、その光と構図が人の心を捉え易いフェルメール、いや少なくとも私は魅了されて、展示されているところには何度でも足を運ぶ、フェルメールバカなもんで、力はいって長文になっちゃいました。あは。、
【注:これらの情報は主として研究者の朽木ゆり子さんの「盗まれたフェルメール」にお頼りしています。】
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