古くは仏前に芳香を献ずるものであった香の分科は、インドや東南アジアから仏教伝播とともに広がり、わが国へ伝えられました。香合(こうごう)・香炉(こうろ)は室町
時代の「唐物(からもの)」賞玩の文化のなかで格式高く扱われ、香りを“聞く”香道具としても発展し、茶道具にもとり込まれていきました。
“茶の湯”で炭点前(すみでまえ)に用いられる姿愛らしき「香合」は茶席に飾られる機会も多く、格別人気の茶道具です。香合は炭点前の成立(16世紀末頃)とともに香炉からはなれ、しだいに自由な素材と造形のものを登場させます、漆芸香合から、和物の陶磁香合、中国へ注文された染付や赤絵の香合などがその例で、江戸初期よりその種類はじつに多様となりました。
本展では、静嘉堂所蔵の漆芸・陶磁香合から優品を精選し、香炉の名品-重要文化財の野々村仁清(ののむらにんせい)作の色絵香炉、中国陶磁の至宝である南宋官窯(なんそうかんよう)の青磁香炉、豪華な蒔絵(まきえ)の「香道具」もあわせ、約100件を後悔いたします。
かおりを包、運び、人の眼を楽しませ、“かおりを飾って”きた器の数々を、緑濃い初夏の季節、どうぞお楽しみください。
◆本会期中、静嘉堂所属の国宝・窯変天目も特別公開致します。
静嘉堂文庫美術館HPより
(注:正式名称は静嘉堂文庫美術館ですが、以下記事は静嘉堂と略して記載させて戴いております。)
最近の静嘉堂は「攻めている」印象があるんですよねぇ。今年からぐるっとパスの対象にもなり、ブロガー内覧会も開いてくれるようになっている。刀剣の時はタイミング合わずだったけど、今回、初めてタイミングと抽選に受かるというラッキーも加わり(最近アップしていないので、落とされるの覚悟でした、スミマセン)参加できました。
当日は、入館者も参加可能なトークショーに参加の上、閉館後担当学芸員により、作品の前で解説を聞けるという二段構え、但し、写真撮影はブロガー内覧会参加者のみ、というスタイル。よって、トークショー時の写真はありません。また、いつもの通りのお願いですが、この写真は特別に主催者の許可を得て撮影しておりますので、無断転載は決してなさらぬようお願い致します。
さて、トークショーの司会進行はお馴染み青い日記帳Takタケさん
ゲストに「開運!なんでも鑑定団」にもお父様の中島誠之助さん同様ご出演の陶磁研究家森由美さん、そして静嘉堂で、国宝曜変天目(稲葉天目)の管理人もされている長谷川学芸員にお話を伺いながら進みます。主なお話のポイントは・・・
香合・香炉:
上記HP解説でもその違いについて説明はありませんが、先ずはそこから。
上記HP解説でもその違いについて説明はありませんが、先ずはそこから。
まぁ簡単に言ってしまえば、蓋つきで、練リタイプのお香を詰めたり、大切なものを閉まっておける小箱のようなものが香合、炊く事で香の煙をたなびかせることができるようになっているものが香炉。そんな説明のされ方でした。(さすがにそれは知ってた)
時代と共に人々の嗜好も変わる:
ま、考えたら、室町期と江戸初期、後期では、為政者も、文化も異なるわけなので、当たり前といえば、当たり前ではあるのですが、改めて言われると、そうだわー、となりますね。
君台観左右帳記(くんだいかんそうちょうき)が纏められた室町幕府の頃は中国の堆朱の香合が、所謂「唐物(からもの)」として愛でられたそうですが、それは、「持っている」という事だけでも「権力の象徴」としての意味合いが強かったというんです。従って、唐物絶対主義的な権威主義が存在。先日の「茶の湯」でも期間公開された、静嘉堂所蔵の国宝曜変天目(稲葉天目)が、香合・香炉展なのに展示されているのも、東山御物(ひがしやまごもつ)で最高位にあるから、その時代感を表現する為とか。
ところで、曜変天目、これまでも何度も静嘉堂でも展示されてきたし、先日は「茶の湯」でトーハクでも展示されてきたけど、今回画期的な試みがされています。
何?
ひとつはね、同じ形で同じ重量(276グラム)のレプリカを置いてくれていること。実際276グラムと聞いたって、どんな感じが、手に持った感じはわからないだけに、とてもありがたい。
もうひとつは、ケースの中の天目茶碗の置いてある高さ!
70センチにしたそうです。
そうなると、かなり見やすくなります。(この間トーハクでぴょんぴょん跳ねながら灰被天目をみようとした私的には、低くして欲しい!と切実に思っていたので、コペルニクス的とは言わないまでも、この新しい静嘉堂の試みは他でも展開してほしい、素晴らしい取組だと思います。)
さて、時代によって嗜好は変わるに戻りましょう。
千利休の弟子の山上宗二(やまのうえのそうじ)の時代にまで進むと、「侘び茶」の世界になり、価値観も変化していきます。和物が登場するわけですね。唐物であっても彫漆ではなくて陶磁器に中心が移ってくる。陶磁器でも唐物代表の青磁や曜変天目ではなくなってくる。
この展覧会では、それが目に見えてわかるような順番で展示されているので、そこも見どころかと思います。
日本人はランキング好き?
私が以前から興味を惹かれまくっていた「安政二年 形物香合相撲番付」のお話がここで登場。
番付表というと現代でも相撲の番付なら一般的にも有名ですが、江戸時代初期(17世紀)には色々な番付表があったらしいのです。(『澪つくし料理帖』でも料理番付でてきますものね)
それは、ともかく、香合の世界では、その安政二年の番付というのが、時々色々な展覧会で出てきていて、どういう仕組みなのか、ずーっと興味があった私ですから、今回、ホンモノが静嘉堂の倉庫から出てきた!(しかも2部!)というお話は、飛び上るほど嬉しいニュースでした。
しかも、一枚の方には朱色のひし形のマークで、いくつあるという事が刻印されている・・・え?同じ香合がいくつもあるの?
どうやらですね、番付の上の方は交趾(こうち)といってベトナム北部あたりで生産された(実際は中国福建省だったことが今は判明しているようです)という事で、大関とか関脇はその交趾を珍重するような順番になっていて、前頭の下の方になってくると、もうこれは、この発行元の名古屋近辺のお道具商が売りたいものを並べただけ疑惑が・・・・
ランキングに頼って、モノ買いたい日本人の気質はこのあたりからは顕著ってことですね。
そうそ、この機に乗じて、暫く前からの疑問 ⇒ https://pikarosewine.blogspot.jp/2013/06/blog-post_26.html
を解決すべく質問できるチャーンス到来。(最後の質問タイムでしたが)
何故、番付そのものは香合のひとつひとつの作品なのに、真ん中の帯の処にあるのが、頭取(黄瀬戸とか伊賀とか志野に加え、仁清とか織部。。。)そして勧進元には「呉須」とかあるの?そもそも勧進元って何さ?的な疑問なんですが、ま、一対一的な回答ではなくて、上述の通りお道具商が売りたいものを書いたらしいという事で。
つまり、あまり意味はないってことですね。うんうん。そう理解する。
「かわいいい」=「香(か)合(あいぃ)」?
ま、少々強引ではありますが、そんな話も出ました。だって、香合の多くはちっちゃいピルケースのような大きさだったり、それなのに動物の形(狸だとかかたつむりだとかね)してたりするわけですよ。
ただね、この話の続きの中で、ちっちゃくて可愛いものは、何もニッポンジンだけの嗜好じゃないって話がでましてね。(明治維新や第二次世界大戦後のニッポンは貧しくて、お金に替えたくてお宝が相当数流出した事情もあるとは思うけど)浮世絵とかばかりでなく、根付や香合が外国にあるという事で、蒔絵の大コレクターだったマリーアントワネットのコレクションには蒔絵の香箱があった等というお話に発展してました。そして、西洋ものが欲しいニッポンジンと日本のものが欲しいフランス人の相思相愛等というキーワードも出て参りました。
またもともと茶の湯では炭点前では香合が唯一の彩のあるものとしての立ち位置で、炉を切る冬は焼き物の香合を使う、といったルールのようなものがあったそうですが、時代をふるにしたがって、そのルールを崩した形で小さくて可愛いものとしての愛玩性がクローズアップされていったようですね。
吉野山蒔絵十種香道具
香箱の話が出たので、静嘉堂には数少ない(というか、これだけ)揃いの香道具がこの《吉野山蒔絵十種香道具》。自慢の逸品らしく、大変美しいお品です。
お香を聴くたしなみとして10種のフルセットを大名家の輿入れ道具に入れたもの、との説明だったと思います。使用目的は組香。(54帖の源氏物語に因んで、源氏香だったら「末摘花」といった組み合わせ、といったような決まりがあるようですが、香道の話は何度聞いても頭に入らず、うまく説明できずすみません。いつか覚えたい。)
仁清の香炉
これも何度も拝見させて戴いていますが、静嘉堂の持つ仁清の香炉がまた美しいんですよね。法螺貝のと鶴の。特に法螺貝のは造形としての良さだけでなく、香炉としての作りの良さ(実際に煙がスムーズに通るようにできている)。そして金をふんだんに使いつつ、一筆一筆、カラフルな模様が描かれていますよね。
~かおりを飾る~
珠玉の香合・香炉展
2017年6月17日(土)~8月13日(日)
(休館日:月曜日、但し7月17日は開館、18日(火)休館)
会期中一部展示替えあり、リピーター割引あり
(本当は7月1日の匂い香つくり体験イベントの告知をしてくださいねって言われていたのに、書きあげるのが遅くなってごめんなさい、でも、お子さん向けのイベントとか、展示の期間は充分あります。是非!)
時代と共に人々の嗜好も変わる:
ま、考えたら、室町期と江戸初期、後期では、為政者も、文化も異なるわけなので、当たり前といえば、当たり前ではあるのですが、改めて言われると、そうだわー、となりますね。
君台観左右帳記(くんだいかんそうちょうき)が纏められた室町幕府の頃は中国の堆朱の香合が、所謂「唐物(からもの)」として愛でられたそうですが、それは、「持っている」という事だけでも「権力の象徴」としての意味合いが強かったというんです。従って、唐物絶対主義的な権威主義が存在。先日の「茶の湯」でも期間公開された、静嘉堂所蔵の国宝曜変天目(稲葉天目)が、香合・香炉展なのに展示されているのも、東山御物(ひがしやまごもつ)で最高位にあるから、その時代感を表現する為とか。
ところで、曜変天目、これまでも何度も静嘉堂でも展示されてきたし、先日は「茶の湯」でトーハクでも展示されてきたけど、今回画期的な試みがされています。
何?
ひとつはね、同じ形で同じ重量(276グラム)のレプリカを置いてくれていること。実際276グラムと聞いたって、どんな感じが、手に持った感じはわからないだけに、とてもありがたい。
もうひとつは、ケースの中の天目茶碗の置いてある高さ!
70センチにしたそうです。
そうなると、かなり見やすくなります。(この間トーハクでぴょんぴょん跳ねながら灰被天目をみようとした私的には、低くして欲しい!と切実に思っていたので、コペルニクス的とは言わないまでも、この新しい静嘉堂の試みは他でも展開してほしい、素晴らしい取組だと思います。)
さて、時代によって嗜好は変わるに戻りましょう。
千利休の弟子の山上宗二(やまのうえのそうじ)の時代にまで進むと、「侘び茶」の世界になり、価値観も変化していきます。和物が登場するわけですね。唐物であっても彫漆ではなくて陶磁器に中心が移ってくる。陶磁器でも唐物代表の青磁や曜変天目ではなくなってくる。
この展覧会では、それが目に見えてわかるような順番で展示されているので、そこも見どころかと思います。
日本人はランキング好き?
私が以前から興味を惹かれまくっていた「安政二年 形物香合相撲番付」のお話がここで登場。
番付表というと現代でも相撲の番付なら一般的にも有名ですが、江戸時代初期(17世紀)には色々な番付表があったらしいのです。(『澪つくし料理帖』でも料理番付でてきますものね)
それは、ともかく、香合の世界では、その安政二年の番付というのが、時々色々な展覧会で出てきていて、どういう仕組みなのか、ずーっと興味があった私ですから、今回、ホンモノが静嘉堂の倉庫から出てきた!(しかも2部!)というお話は、飛び上るほど嬉しいニュースでした。
しかも、一枚の方には朱色のひし形のマークで、いくつあるという事が刻印されている・・・え?同じ香合がいくつもあるの?
どうやらですね、番付の上の方は交趾(こうち)といってベトナム北部あたりで生産された(実際は中国福建省だったことが今は判明しているようです)という事で、大関とか関脇はその交趾を珍重するような順番になっていて、前頭の下の方になってくると、もうこれは、この発行元の名古屋近辺のお道具商が売りたいものを並べただけ疑惑が・・・・
ランキングに頼って、モノ買いたい日本人の気質はこのあたりからは顕著ってことですね。
そうそ、この機に乗じて、暫く前からの疑問 ⇒ https://pikarosewine.blogspot.jp/2013/06/blog-post_26.html
を解決すべく質問できるチャーンス到来。(最後の質問タイムでしたが)
何故、番付そのものは香合のひとつひとつの作品なのに、真ん中の帯の処にあるのが、頭取(黄瀬戸とか伊賀とか志野に加え、仁清とか織部。。。)そして勧進元には「呉須」とかあるの?そもそも勧進元って何さ?的な疑問なんですが、ま、一対一的な回答ではなくて、上述の通りお道具商が売りたいものを書いたらしいという事で。
つまり、あまり意味はないってことですね。うんうん。そう理解する。
「かわいいい」=「香(か)合(あいぃ)」?
ま、少々強引ではありますが、そんな話も出ました。だって、香合の多くはちっちゃいピルケースのような大きさだったり、それなのに動物の形(狸だとかかたつむりだとかね)してたりするわけですよ。
ただね、この話の続きの中で、ちっちゃくて可愛いものは、何もニッポンジンだけの嗜好じゃないって話がでましてね。(明治維新や第二次世界大戦後のニッポンは貧しくて、お金に替えたくてお宝が相当数流出した事情もあるとは思うけど)浮世絵とかばかりでなく、根付や香合が外国にあるという事で、蒔絵の大コレクターだったマリーアントワネットのコレクションには蒔絵の香箱があった等というお話に発展してました。そして、西洋ものが欲しいニッポンジンと日本のものが欲しいフランス人の相思相愛等というキーワードも出て参りました。
またもともと茶の湯では炭点前では香合が唯一の彩のあるものとしての立ち位置で、炉を切る冬は焼き物の香合を使う、といったルールのようなものがあったそうですが、時代をふるにしたがって、そのルールを崩した形で小さくて可愛いものとしての愛玩性がクローズアップされていったようですね。
吉野山蒔絵十種香道具
香箱の話が出たので、静嘉堂には数少ない(というか、これだけ)揃いの香道具がこの《吉野山蒔絵十種香道具》。自慢の逸品らしく、大変美しいお品です。
お香を聴くたしなみとして10種のフルセットを大名家の輿入れ道具に入れたもの、との説明だったと思います。使用目的は組香。(54帖の源氏物語に因んで、源氏香だったら「末摘花」といった組み合わせ、といったような決まりがあるようですが、香道の話は何度聞いても頭に入らず、うまく説明できずすみません。いつか覚えたい。)
仁清の香炉
これも何度も拝見させて戴いていますが、静嘉堂の持つ仁清の香炉がまた美しいんですよね。法螺貝のと鶴の。特に法螺貝のは造形としての良さだけでなく、香炉としての作りの良さ(実際に煙がスムーズに通るようにできている)。そして金をふんだんに使いつつ、一筆一筆、カラフルな模様が描かれていますよね。
~かおりを飾る~
珠玉の香合・香炉展
2017年6月17日(土)~8月13日(日)
(休館日:月曜日、但し7月17日は開館、18日(火)休館)
会期中一部展示替えあり、リピーター割引あり
(本当は7月1日の匂い香つくり体験イベントの告知をしてくださいねって言われていたのに、書きあげるのが遅くなってごめんなさい、でも、お子さん向けのイベントとか、展示の期間は充分あります。是非!)