2014年7月5日土曜日

冷たい炎の画家ーヴァロットン展 @三菱一号館美術館 絵を描き続けることの幸せと家庭での孤独と

ブロガー内覧会には当たらなかったけど、ちょっとしたご縁のおかげで、短期間の間に二回行くことができました。
宣伝とか、新聞の評とかには「冷たい」とか「緊張感」とか「不安」「覗き見」「冷淡な視点」「異端者」とまぁ、並べるだけ並べられたあたたくないお言葉ばかり。
確かに、やたら裸婦、女性の臀部を意識していて、「女性が怖い」と思われる表現(神話を題材にしたシリーズに顕著)「家庭内での孤独」(必ず絵図が紹介されている《夕食・ランプの光》に代表されるような)という印象は強い。

でも、二回見てこの人の絵描きとしての真骨頂は、やはり、それで認められた木版画だとあらためて感じましたね。
最初に認められたという《街頭デモ》1893年を含み、1891年から1901年のわずか10年の間に120点以上の木版画を制作したという理由はわからないけど(日本の浮世絵の影響なのかな?)、意外にも小さいサイズの(ポスターになっているせいで、《嘘》はもっと大きいのかと思ってたけど、《嘘》を含む《アンティがミテ》シリーズの木版画、というよりすべての木版画がほぼ同じくらいの大きさ、20センチ×25センチ前後)すべての作品が生き生きしていて、すばらしい。
特に気に入ったのは《暗殺》‐ー振り上げているナイフの一部しか見えないのにこれからどんな悲惨なサスペンスが待っているのか。。。とドキドキしちゃいます。
それと版数を重ねない為に版木を途中で切ってしまってそれを集めて《版木破棄証明のための刷り》なーんていうのもあって楽しい。
楽しいと言えば、蔵書票もあったなぁ。なぜか水浴する女性ばかり。
章のタイトルにもなっている「黒い染みが生む悲痛な激しさ」と言ったのはタデ・ナタンソン、ナビ派を擁護していた雑誌「ルヴュ・ブランシュ」の主催者で《ボール》の場面になった別荘の所有者でもある人で、最初にこの雑誌に木版画を載せてもらったみたい。
木版画の素晴らしさは、最後にも出てくる従軍画家としての作品《これが戦争だ!》シリーズも全く衰えがないし。。戦争といえば戦争犠牲者への視線を感じることができますね。

個人的には、この人って、天才的に上手いわけではないと思うんだけど、人には恵まれていたのではないかな、画家として、後ろ盾がなかったわけではないし、疎外感のある家庭生活だったかもしれないけど、経済的に恵まれることになったわけだし、何より、年上の奥さんがモデルになっている作品も多いわけで・・後姿ばかりでなく神話シリーズの顔とか。。
《夕食、ランプの光》は確かに家庭内の孤独と結び付けられて致し方ない描き方だけど、考えてみると、やはりお金持ちだったカイユボットの絵にも皆が視線を合わさない食卓の場面はあったわけで、血を分けていてもそんなもんじゃないの?とつっこみを入れたくなってしまうわけで。。ま、勿論、ヴァロットンの場合は、違和感について残しているみたいだから、幸せっいっぱいだけではなかったのでしょうけどね。

そして油彩。確かに、今回の展覧会のおかげで《ボール》《貞淑なシュザンヌ》(おっさんたちの禿げ頭のぴかぴかぶりが印象的。。)《夕食・ランプの光》(ランプに猫ちゃんが)が刷りこまれたことは事実なんですが、《ボール》は2010年のオルセー美術館展に登場していたのにまったく記憶がないの。二つの視線というのに。。。
油彩の出色は《赤い絨毯に横たわる裸婦》かな。顔怖いけど。大好きだったというアングルへのオマージュとしては《トルコ風呂》よりもいい出来。。

あ、あとね、《ワルツ》は、スケートをする版画に印象が似てるの。ついこの間展覧会があったアレなんだっけ・・・うーん思い出せぬ。

ま、それはともかく外国人のナビ派とも言われ、ナビ派のなかでもうしろにたって、みんな視線があってないない《5人の画家》の時からクールな表情を浮かべていたこの画家が異質なことは確かかな。

なぜか、リュクサンブール公園を描いた《公園・夕暮れ》のプレートには猫の絵があったり、2階の部屋に行く手前の壁にも木版画のモチーフがあったりと、こそっと楽しい発見がある一方、三菱一号館のヴァロットンとナビ派の芸術家たちコーナーの壁紙がやたら染みがついていて汚らしかったのか気になりました。


あと、改修のため1年半休館する静嘉堂文庫の東洋陶磁コレクションが普段はビデオを見せてくれる部屋にありました。たった10作品なんだけど、ちょうど根津でやってるカラフルに対応するような清朝の単色釉磁器が特集されていまして、お勉強になりました。特に《藍釉暗花龍文盤(らんゆうあんかりゅうもんばん) 一対 「大清康熙年製」銘》はよくみないとわからない(だから暗花)細かい線彫りで皇帝のシンボルである五爪の龍が描かれているんですね。とても品のいい茄子紫の色というばかりではなく、そういったところに品格がある良品でした。

ヴァロットン‐冷たい炎の画家
三菱一号館美術館
2014年6月14日(土)~9月23日(火・祝)
同時開催
静嘉堂の東洋陶磁コレクション第一回 艶めくやきものー清朝の単色釉磁器
 

0 件のコメント:

コメントを投稿