風景画、人物画、抽象絵画といった主題やジャンルにかかわらず、どんな絵でも平らな面の上に一つまたは複数の色が塗られています。画家たちはきっといろいろなことを考えて筆を動かしたことでしょう。目の前の風景をできるだけ正確に再現してみせようと思ったかもしれませんし、自分の心の中の理想のイメージを何とかして表現したいと考えた画家もいたかもしれません。あるいは美しい色やかたちを並べて楽しんでいた場合もあったかもしれません。しかし、どんな場合であっても、画家たちが実際に画面に描いたり塗ったりするのは線やかたちであり、多彩な色です。たとえば、花の姿をできるだけ正確に再現しようとした場合でも、花そのものを作るわけではなく、かたちや色を使って実際の花に見えるようなイメージを実現しているのです。今回の展示では、そうした絵画表現の基本要素である色とかたちに残された「筆あと」に注意を向け、当館のコレクションから「点」、「線」、「面」の筆あとが特徴的な作品28点をご紹介いたします。
(ブリヂストン美術館の展覧会の説明文より)
収蔵品による企画展だし、と、うかうかしていたら、あやうく会期が終了するところだ。。。ということで、終了間際になっちゃったけれど、一時間ほどうかがってきました。
この企画は素晴らしかったです。
殆ど見たことのある作品だし、たった、28点だし点とか線とか面なんて当たり前だ、と思っていたけど、違いましたねー。
じっくりテーマに沿って、眺めてみると、新たな発見が次々と。(そりゃ、私が注意散漫すぎたからなのかもしれませんけどね。)
勿論、例えば青木繁の《海景(布良の海)》が、点描中心かといえば、一見そうとは感じられない、確かに中央の岩は点描風に描かれているけど、、と、少々こじつけかなぁーと思うような分類もあったけど、じっくり一枚一枚、その痕跡をたどることもまた新たな魅力を見出すことに繋がって、大変面白かった。
今回の新たな収穫は猪熊弦一郎の《夜の猫》。線の例だったのだけど、水溜り(のようなもの)に反映した猫の影まで描かれたエッチングかと思いきや、水彩とグワッシュ、インクと筆で線を描いたようでした。
今まで展示されたことがあったかどうか全く覚えていないほど、たとえ展示されていたとしても目に留まらなかったわけですが、今回大変印象に残った、好きな作品。
そして、これは今までも何度も見たことがあるフォートリエの《旋廻する線》のお隣にかかっていた《人質の頭部》。解説にアンドレマルローが苦痛の象形文字と称したと書いてありましたけど、本当に盛り上がった顔状の膨らみの上に黒い線が引かれていて、確かに苦痛の表情とわかるのです。たったそれだけで、この絵における線の重要さがクローズアップされて、見事に企画者の意図を受け止めることのできる作品として頭の中に刻み込まれました。
あと、以前ザオ・ウォーキーの特集企画に行かれなかったので、初めてご対面することになった、彼のエッチングとかも新鮮でしたねぇ。
毎回知っているからと目の端に留めるだけで、さーっと、その前を通り過ぎるセザンヌの《サンビクトワール山とシャトーノワール》も今回はじっくり拝見しました。
画家が色彩をどのように捉え、色々な色を組み合わせて山の形を作っていっているのか、ということがはっきりわかるのは、最近の透明度の高いガラスのおかげもあるでしょうが、企画の勝利です。
実はあんまり以前は好きではなかったのですが、実にシンプルに面を描きながら日の出を描いていたのだ、という事に思いが至り、少しだけ(笑)好きになりました。丁度常設の方にもこぶりの、《港の朝陽》がかかっていて、両者の対比に思いを寄せることもできました。
28点と少な目だったけれど、ここで感じた気持ちをそのまま通常の常設に持ち込みつつ眺めるのもいとおかし、で楽しい鑑賞となりました。
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